従業員が語りたくなるブランドストーリーの育て方：エンゲージメントを高め、自発的な外部発信を促す仕組み
従業員が語りたくなるブランドストーリーの育て方：エンゲージメントを高め、自発的な外部発信を促す仕組み
企業ブランドの価値向上において、従業員の存在は欠かせないものとなっています。特に、従業員一人ひとりが自社のブランドについて、自身の言葉で語り、外部へ発信していくことは、公式な広報活動だけでは得られない信頼性や共感を生み出します。これは、従業員エンゲージメントが高い状態であればこそ、自然発生的に起こりうる現象です。
しかし、単にブランド情報を共有するだけでは、従業員が積極的に「語り部」となるわけではありません。従業員が自社のブランドストーリーを「語りたい」と感じるような、内側からの動機と、それを後押しする「仕組み」の構築が重要です。本稿では、従業員エンゲージメントを高めつつ、自発的なブランドストーリー発信を促すための具体的なアプローチについて探求します。
なぜ従業員がブランドストーリーを語ることが重要なのか
公式発表や広告メッセージは、企業の意図や戦略を正確に伝える上で不可欠です。しかし、それだけでは受け手に「作られた情報」として捉えられてしまう可能性があります。一方、従業員が自身の経験や日々の業務を通して感じたブランドのリアルな姿を語ることは、以下のような点で大きなメリットをもたらします。
- 信頼性と共感の獲得: 従業員の個人的な視点や体験談は、生活者の共感を呼びやすく、ブランドに対する親近感や信頼感を高めます。公式メッセージよりも「本物らしさ」を感じさせることができるため、情報の受け手にとって説得力が増します。
- ブランド認知の拡大と深化: 多様なバックグラウンドを持つ従業員がそれぞれのネットワークを通じて発信することで、ブランドメッセージがより幅広い層に届く可能性が生まれます。また、個人のストーリーを通してブランドの多面性や深みが伝わります。
- ポジティブな企業文化の醸成: 従業員が自社ブランドについて肯定的に語る文化は、社内の士気を高め、エンゲージメントをさらに深める効果があります。これは、インナーブランディングとアウターブランディングの好循環を生み出します。
- 危機管理におけるレジリエンス: 有事の際、従業員一人ひとりがブランドを支持し、誠実な姿勢を示すことは、外部からの信頼失墜を防ぎ、ブランドの回復力を高める上で重要な役割を果たします。
これらのメリットを享受するためには、従業員がブランドストーリーを語るための「土壌」を耕すことが必要です。
従業員が「語りたくなる」ブランドストーリーとは
従業員が自発的に語りたくなるストーリーには、いくつかの共通する要素があります。
- 共感を呼ぶ「人間らしさ」: 企業の創業秘話、製品開発の苦労話、顧客との心温まるエピソードなど、関係者の情熱や困難、成功といった人間的な側面に焦点を当てたストーリーは、従業員の感情に響きやすく、共感を呼びます。
- 明確なブランドパーパスとの連携: なぜその企業が存在するのか、どのような価値を提供したいのかというブランドパーパスが明確であり、それが従業員の仕事や価値観と結びついている場合、従業員はそのストーリーを自身の物語として語りやすくなります。
- 自身の業務との関連性: 従業員が日々の仕事の中でブランド価値の実現にどのように貢献しているのか、自身の具体的な体験を通して語れるストーリーは、最も個人的で説得力があります。部署や役職に関わらず、誰もが自分事として語れる要素が必要です。
- 前向きな変化と成長: 企業や製品、顧客がどのように変化し、成長してきたのかというストーリーは、未来への期待感を醸成し、従業員のエンゲージメントを高めつつ、外部にもポジティブな印象を与えます。
これらの要素を含むブランドストーリーを社内に浸透させ、従業員がそれを自分自身の言葉で語れるように導くプロセスが求められます。
従業員がブランドストーリーを「語り出す」ための仕組みづくり
従業員が自社のブランドストーリーを語るようになるためには、単に「語ってください」と依頼するだけではなく、体系的な仕組みと継続的な取り組みが必要です。
1. ブランドストーリーの明確化と一貫した共有
まず、企業として「語ってほしい」ブランドストーリーを明確に定義します。これは、創業の想い、製品・サービスに込めたこだわり、社会への貢献、企業文化や価値観など、多岐にわたります。
- 誰にでも分かりやすい言葉で定義: 専門用語を避け、従業員誰もが理解・共感できる平易な言葉でブランドストーリーをまとめます。ブランドブックやインナーコミュニケーションツールなどで共有します。
- 多様な媒体での繰り返し共有: 全社集会、社内報、社内SNS、イントラネット、社内研修など、様々な機会と媒体を活用し、繰り返しストーリーを伝えます。一度聞いただけでは記憶に残らないため、複数の接点で自然に触れる機会を設けることが重要です。
- 経営層・リーダーの率先垂範: 経営層や部門リーダーが、自身の言葉でブランドストーリーやそれにまつわる自身の体験を語る姿を示すことは、従業員にとって最も強力なメッセージとなります。
2. エンゲージメントの基盤強化
ブランドストーリーを語る意欲は、企業に対する信頼や愛着、自身の仕事への誇りといったエンゲージメントの高さに比例します。基本的なエンゲージメント向上施策は、ブランドストーリー発信の土台となります。
- 透明性の高いコミュニケーション: 経営状況や戦略、意思決定プロセスについて従業員に透明性高く共有することで、企業への信頼感を醸成します。
- 公平な評価と成長機会の提供: 従業員が自身の貢献を正当に評価されていると感じ、成長の機会が与えられていると感じることは、企業へのエンゲージメントを高めます。
- 心理的安全性の確保: 従業員が安心して意見を表明したり、挑戦したりできる環境は、ブランドに対する正直なフィードバックや、パーソナルなストーリー共有を促します。
3. 「語る」機会と場の提供
従業員がブランドストーリーを「語りたい」と感じたとしても、それを表現する機会や場がなければ実現しません。
- 社内イベントでの「マイストーリー」共有: 全社集会や部署横断の交流イベントなどで、従業員が自身のブランド体験や仕事への想いを語る時間を設けます。
- 社内メディアでの積極的な紹介: 社内報や社内SNSで、ブランドパーパスを体現する従業員の活動や、顧客との感動的なエピソードなどを積極的に紹介します。インタビュー記事や動画コンテンツなども有効です。
- ブランド関連のワークショップや研修: ブランドの歴史、価値観、目指す未来などに関するワークショップを実施し、従業員が自身の言葉でブランドについて考える機会を提供します。ストーリーテリングのスキル研修も有効です。
4. 「語る」ことへの後押しと支援
自発的な発信を促すためには、企業側からのサポートが必要です。
- ソーシャルメディア活用ガイドラインの整備: 従業員がSNS等でブランドについて発信する際のリスクを管理しつつ、どのような情報を、どのようなトーンで発信することが望ましいのかを明確に示すガイドラインを策定・周知します。単なる規制ではなく、「応援」の姿勢を示すことが重要です。
- 発信ツールの提供や紹介: 社内ブログ、SNS連携ツール、動画編集ツールなど、従業員がストーリーを発信する際に役立つツールを紹介したり、利用を推奨したりします。
- 称賛と認知の仕組み: 良いストーリーを語った従業員や、積極的にブランドを発信する従業員を、社内報での紹介、表彰制度、経営層からのメッセージなどで称賛し、その行動を広く認知させます。
- ストーリーテリングスキルの向上支援: 魅力的なストーリーの構成方法や、効果的な伝え方に関する研修やヒントを提供します。
5. 双方向コミュニケーションの促進
一方的な情報伝達に終始するのではなく、従業員からのフィードバックやアイデアを積極的に吸い上げ、ブランドストーリーやコミュニケーション施策に反映させる姿勢が重要です。従業員は「自分たちの声がブランドをつくっている」と感じることで、さらに積極的に関与し、ストーリーを語るようになります。
まとめ：エンゲージメントが拓く自発的なブランドストーリー発信の未来
従業員が自社のブランドストーリーを自らの言葉で語るようになることは、企業ブランドの信頼性や魅力を高め、競合との差別化を図る上で非常に有効な戦略です。これは、従業員が高いエンゲージメントを持ち、企業への愛着や誇りを感じているからこそ可能になります。
ブランドストーリーの明確化と共有、エンゲージメント基盤の強化、「語る」機会と場の提供、後押しと支援、そして双方向コミュニケーションの促進といった多角的な仕組みを構築することで、従業員は単なる情報の受け手から、ブランドの熱心な「語り部」へと変貌していきます。
このような、内側からの熱量によって駆動されるブランドストーリーの発信は、企業ブランド価値を最大化し、顧客や社会との間に強い絆を築く未来へと繋がる重要なステップであると言えるでしょう。企業は、従業員エンゲージメントを核としたブランドストーリー戦略を通じて、持続的な成長と、より豊かなブランド体験の創出を目指すことが求められています。